閑さや 岩にしみ入る 蝉の声
かの芭蕉が「奥の細道」執筆の際にここ山形、立石寺を訪れたときに詠んだ有名な一句。
ここ「宝珠山 立石寺」は、聳え立つ山に沿ってその寺社が立ち並ぶことから、通称「山寺」と呼ばれている。
そんな山寺。文字通り崖に沿って階段を登っていくわけだが、なんとその段数は、
”1070段”
東京タワーの外階段ですら600段だというのに。
それをこの二日酔いの体で登るというのか。馬鹿げた、なんとも罰当たりな話だ。
それでも登りたい
そういえば以前もここに来た事があったと思う。
あれは3年前ぐらいだっただろうか。
今よりも20キロぐらい太っていたときだ。そんな巨体でこの山を登るのは酷でしかない。
当然、最初の階段(上の写真)の場所でリタイアしたのだった。
今回はそんな屈辱を晴らすべく、この階段を思いっきり駆け上がってやった。
根本中道が見えた。そういえば二日酔いだったことを忘れていた。頭が痛い。失敗した。
無事に登れるように。
「こんなの余裕ですよ」
そう語るのは、毎日山寺に登っているという地元のおじいちゃん。
どうもランニングが趣味らしく、体を鍛えるために毎日奥の院までの階段を何往復もしているらしい。
山寺はジム代わりというわけか。なんとも複雑な、知らない世界の一端を覗いたような気分になる。
まあ、きっとこのくらいの階段は余裕なのだろう。少し勇気をもらいながら、腫れたまぶたとわずかに震える膝を連れて山門をくぐり抜けていく。
登って、登って、のぼる
階段を一歩一歩、無心に登っていく。
決して足元を誤らないように。頭痛と戦い、肌に受ける冷気で酔いを覚ましながら。
見上げるとそこには美しい景色があった。
ようやく五大堂へ
何段登ったかなどはもう数えていない。というよりは、数えようと思っていない、、が。
8割方登ったのでは?というところで五大堂に着く。
ああ、そういえばどこかで見たことのある光景だなあ。あれはどこだっただろうか。
そうだ、これはきっと高校の教科書で見た光景だったような気がする。
あの時は山寺なんて果てしなく遠いと思っていた。しかも、まして自分が何度も足を運ぶとも思っていなかった。
人生はわからないものだ。
いよいよ奥の院へ
ついにたどり着いた。
1070の段を登りきったということだ。我ながらよくやったと思う。
ちなみに、ここまでの所要時間は15分だった。
たどり着いたからには、しっかりと手を合わせる。
ここ、奥の院のご利益は”悪縁切り”とのこと。
お寺で願い事はあまりしないのだが、今回ばかりはこう願った。
「お酒とタバコを辞められますように」
次回は旅とタバコの話でも書こうと思う。
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